FC2ブログ








官能小説「零れる月」 教師(4) 


「あ。そうだ、同窓会の通知来たか?」

いつものホテル。ぶ厚いカーテンが掛かったオレンジ色の部屋。
行為を終えて一呼吸置いた彼が、煙草を探しながら口を開く。


「来たよ。あなたのクラスと合同でするみたいね」

私は彼の担任するクラスではなかったが
合同補習の多かった進学クラスは、生徒同士も密な関係を築いていた。


「美枝子が張り切ってたよ。地元だからって…
私も幹事に引きずり込まれそうになったけど」

「ふぅん。んな楽しいもんなのかね。
ま。まだ二年だし、集まりがいいかもな」
眉間に軽く皺を寄せた彼が、煙草に火を付ける。


「で、お前行くの?」
「行くつもりだけど…行っちゃ駄目なの?」

「だって、お前の顔見て勃っちまったらどーすんの。くく…」
「……馬鹿」


最近の彼は良く喋る。
フィルターギリギリまで吸った煙草を灰皿に押しつけると
またベッドの中に潜り込んできた。
行為の後でまだ気怠い私の胸に、甘えるように顔を埋めてくる。

まるで、子供みたいだ。



同窓会の会場は、海沿いの小さなホテルだった。

卒業してから二年。皆、それほど変わってはいないけれど、
都会に出ていた友人達はどこか垢抜けたりしていて。
受付のある広いフロアは、明るく賑やかな声で溢れていた。


私は、黒地にピンクのプリントを施したシンプルなワンピース。
友人と一緒にコートを預けていると、彼がやってきた。


白いニットにジャケット。
ノーネクタイのラフな姿。
いつもよりも若く見えるその姿に違和感を感じて、視線が釘付けになる。


私は、スーツ姿以外の彼を見たことがないのだ。

卒業してからも、彼は学校での業務を終えた後、
そのままの姿で私を迎えに来ていた。

二人逢うのは、いつも暗闇の中で。
二人でどこか食事に出かけたこともなければ、
昼間に肩を並べて歩いたこともない。


陽の光の中での彼は別人に見えて
私と彼との距離を遠ざける気がした。


彼との逢瀬、唇にかかる吐息。すべては夢の中の出来事…
皆に囲まれる彼の姿を見つめながら、
ぼんやりと一人取り残された心地になる。


囲まれながら受付を済ませた彼が、私の方へと近付いてきた。
咄嗟に視線を逸らして背を向ける。締め付けられた胸が苦しい。


「よ。元気だったか?」
背後からの声。

頭に大きな手の平が乗せられて、びくりとする。
いつもの声。
その顔を振り返ると、私は精一杯の笑顔を作ってみせた。


「先生。お久しぶりです」

視線を合わせると、彼の表情が少し緩んだ。
胸の奥がずきりと痛む。


「お、小倉。生きてたのか」
彼は肩に軽く触れると私から離れ、また違う人の輪へと向かった。


触れられた箇所が熱い。
鼓動が早くなって涙が滲みそうになる。


私は彼の背中を視線で追いながら、此処に来たことを後悔し始めていた。





ランキング応援いつも有り難うございます(別窓で開きます)
人気ブログランキングへ

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://miwamiwa.blog13.fc2.com/tb.php/8-2b926796




出会い