FC2ブログ








官能小説「零れる月」 教師(11)  

すっかり人気の無くなったロビー。
久美も次の講義があるからと慌てて行ってしまった。


残された二人。
立ちつくしたままの私と彼の間に沈黙が流れる。

彼は、私とまともに視線も合わせないまま煙草をくわえると
傍の白くて固いソファーに、どかりと腰を下ろした。


「元気だったか?」

大きく煙を吐き出すと同時に彼が顔を上げる。

いつもの茶化した顔と声。
だけど、どこか困ったような笑顔。


「どうしてこんなところにいるの?」

懐かしい声に締め付けられる胸。
でも、私の声は思いの外静かに響いた。


「仕事だよ、仕事。もう少ししたら戻る」
「ああ、進路の…」
「立ってないで座れよ」


煙草の煙が私の身体を包む。
それはヘビースモーカーの彼の匂いそのもので。

少し躊躇しながら隣へ腰掛けると
また、大きく彼が煙を吐き出した。


「アレ、ルームメイトなんだって?」
「……ああ、久美のこと?」

相変わらずの口の悪さに少し眉を顰める。
彼女は彼を気に入ったようだったけれど。


「折角だからお前が居るかと思ってさ。けど時間もねぇし。
掲示板の前でふらふらしてた子に駄目元で聞いてみたわけ」

「それが久美だったの?」
「そ。出来過ぎだと思わね?」


吸い殻の始末をしながら、彼が可笑しそうに肩を震わせる。
「台風みたいな小娘だな」

その時のシーンが容易に想像できて、私も少し笑った。


久美のおかげで少し緩やかになった空気。

まるで空白と、その距離を埋めるような時間は
お互いの小さな罪悪感を誤魔化す為のものだったのかも知れない。


「授業出てないらしいじゃん」

久美から色々聞いたみたいだ。
尤も、彼が聞かなくても喋ってしまったんだろうけど。

「余り体調が良くなくて…」
「そういえば、顔色が悪いな」


彼の大きな掌が無遠慮に私の額に触れる。

そして、体温を確かめるように暫く留まると、
くしゃりと乱暴に前髪を掻き上げて離れた。


「ちゃんと食ってんのか」
「うん…」

掌の熱がまだ残った額。
頬が紅潮して、みるみる体温が上がっていくのがわかる。


まるで無垢な少女みたいだ。
そう思うと益々気恥ずかしくて、視線を外すように俯く。
少し触れられただけで早くなる鼓動。


他の誰にでもなく、彼にだけ感じるこの感覚は
「特別」を意識させて切なさを呼ぶ。

何度も肌を合わせたはずなのに、とても遠くて。
きっと、その距離は永遠に縮まることがないんだろう。


「忙しくて連絡できなかった」
「……うん」


たった一言に宥められて、私は忠実な奴隷へと戻るのだ。
流れのままに身を投げ出して、私は…



「抱いて貰えなくて淋しかった」


彼が黙って腕を回し、腰を引き寄せる。
全てから切り離された広いロビー。


重なる唇に、滴り滲んでいくお互いの欲。

自分から差し入れた舌は飲み込まれ、
ぐちぐちと下品な水音を立てて
簡単に私の全てを溶かしていった。




ランキング応援いつも有り難うございます(別窓で開きます)
人気ブログランキングへ

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
[ 2010/03/15 16:01 ] [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
[ 2010/04/22 04:50 ] [ 編集 ]

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
[ 2012/06/22 17:06 ] [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
[ 2013/09/02 10:51 ] [ 編集 ]

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://miwamiwa.blog13.fc2.com/tb.php/37-3ef07892




出会い