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官能小説「零れる月」 友人(5) 


「体の関係は…勿論あるよな?」


私が泣きじゃくっている間、
一哉はずっと私の背を撫でていてくれた。

私の様子が落ち着くのを見計らって、
彼は優しい声で問い始める。


「…うん」
「そう。まさか初めてだったとか」

「……」
「…ふぅ」

一哉は、私の体を抱いたままため息をつく。

「美羽ちゃんには悪いけどさ。遊びだと思うぜ」


自分の中で言い聞かせていた言葉だけれど、
第三者から言われるとやはり胸が痛む。


「あいつの何処が良かったんだか」
忌々しそうに呟く彼。

「初めての相手だから…特別だと思ってるだけだよ」


そうなんだろうか。
私は、冷静さを取り戻した頭で彼のことを思う。

何も知らなかった私。
強引な彼に流されるまま、ずるずると関係は続いてきた。

体を重ねることで、私のバランスは保たれるけれど
それは、恋愛の感情とは別なのかもしれない。


「美羽ちゃんは被害者だぜ」

私を守ろうとする彼の言葉が、
どんどん私を惨めにしていく気がする。


彼に対する感情の渦は、愛ではないの?
彼の言葉も、やっぱり嘘なんだろうか。

玩具で良いと思っていたのに。

いつの間にか、私は他のものを欲しがりかけていた。
彼が愛をちらつかせる度に、私のバランスは崩れていく。

求められたくて、求めたくて。
この衝動は、もう理性では抑えきれない。


「彼氏は?気付いてないの」
「…判らない。でも、何も言わないから…」
「…お気楽な彼氏だな」

彼がため息を吐き出す度に、私の髪が揺れる。

彼の鼓動は熱くて早い。

怒っている様子が窺えるけれど、
その感情の荒々しさが私を安心させた。


「とてもいい人なの。私には勿体ない」
「へぇ」

彼は何か言おうとしたけれど、
その言葉を飲み込んだようだ。


「美羽ちゃんは…これからどうしたいの?」


これから…?

私は、温もりの中で熔けていく頭で考える。
これから、私はどうなるんだろう。

私の気持ち、では何もかもどうにもならない気がした。
この感情の渦から逃れたい。ただ、それだけ。



「抱いて欲しい」

私の口から出た言葉に、彼は抱く腕の力を強めた。
私の意図が伝わっていないようだ。


「ホテルに行きたい」

はっきりと口に出す。
彼が驚いて体を離す。


「なに…ヤケになってるの?」
苦笑しながら、彼がまっすぐ私を見据える。


「…駄目。今やると、俺仲間になっちまうから」
彼は、私の右手を握りしめ、もう一方の手で頬を撫でる。

「俺はさ、ちゃんと付き合いたいんだよ」


彼の困惑する表情を、見つめる。

私は、自分だけではなく、
人の感情にも鈍感になっているのかもしれない。


それでも、恐ろしいほどに静まりかえった胸。

まるで、嵐をやり過ごすために固く閉じたシェルターの中のように。
彼の言葉も、私の上をあっさりと通過してしまう。


「抱いてくれないなら…いい」
「美羽ちゃん…」


「…君のこと泣かせないからさ、俺と付き合ってくれない?」

真剣な眼差しに、私は言葉を返せない。
今欲しいのは、愛情ではなくて確かな温もり。


「とりあえず、佐伯とは別れろよ…」
言葉を発しない私に、彼は声を落とす。

「彼氏と今すぐ別れろとは言わないから」



私は、ゆっくりと立ち上がる。
私の手が、するりと彼の手の中から抜けた。

「ありがとう」

感情のこもらぬ声で告げると、
私は彼に背中を向けて歩き出す。

彼は、何か考え込んでいるのか
ベンチに座ったまま動かない。


私は空虚な気持ちのまま、来た道を一人で戻り始める。

今、何時だろう。ぼんやりとそんなことを考えた。
心も、体も、感覚を失ってしまいそうで涙が滲む。



「待って」

突然背後から腕を掴まれて、はっとする。
振り返り、その表情を見上げる。

「…行こう」
意を決したような彼の表情。


来た時よりも、乱暴で、熱い手を繋ぐ。

引っ張られるように、私は彼の車の方へと向かった。







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