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官能小説「零れる月」 恋人(4) 


私たちは、車を走らせて大きなショッピングセンターへと向かった。


天井の高い、明るくて広い食品売り場。
大学は少し辺鄙なところにあったので、
食料はいつも此処に買い出しに来ていた。


「結局、何が食べたいの?」
「んー、肉食いたいなぁ」
訊ねた私に、まだ空っぽの籠を持った彼が答える。

「…肉?」
私は眉間に皺を寄せる。

ホットプレートで焼き肉とか。
でも、それは料理に入るんだろうか。


「あ、カレーでもいいよ」
定番料理を口に出した彼を、私は軽く睨む。

「…料理できないと思ってるでしょ」
「はは。美羽の作るもんなら、俺、何でも嬉しいよ」


さらりと言い放つ彼の言葉に、少し顔が赤くなる。

彼は、いつもストレートだ。
捻くれた性格の私には、彼の率直さがとても眩しくて。
そして、彼の言葉は素直に信じられる気がした。


「じゃ、シチューにする?ビーフシチュー」
「あ、食いたい」

煮込みものなら、まず失敗することはないだろう。


サラダにする野菜類とシチューのルー、
少し奮発したお肉を籠に入れていく。
部屋には、まだ常備菜が残っている筈。

私は、ビーフシチューにはパンだと思いこんでいたけれど、
彼はご飯がいいと言い張るので、パンを買うのは止めた。

後はデザート。バニラのカップアイスふたつ。



アイスが溶けてしまわないうちにと、
私達は急いで部屋へと向かった。

ピンクの外壁の2LDKのアパート。
殆どの部屋は、大学生で埋まっていた。


「お邪魔しまーす」
彼が、少し緊張した面持ちで玄関ドアから中を覗き込む。

「ちょっと散らかってるかも・・・」
ドアを押さえて、荷物を抱えた彼を部屋へと通す。

「やっぱり女の子の部屋だなぁ」
買い物袋をキッチンに下ろした彼は、きょろきょろと部屋の中を見回す。

「あ、そっちは入っちゃ駄目だよ」
ドアの閉まった部屋。彼女の部屋。

「じゃ、こっちが美羽の部屋?」


ベッドの置いてある小さな部屋を彼は興味深そうに散策している。

「ちょっとー、あんまり覗かないでよ」

少し柔らかくなったアイスを冷凍庫に仕舞いながら声を荒げる。

「はーい」
彼は大人しく私のいるキッチンへと戻ってきた。



「何か、手伝うこと無い?」
野菜を切り始めた私の後ろで、彼は熊のようにウロウロしている。

「気が散るから座ってて」
彼は、叱られた子供のような顔でしぶしぶとソファーに腰掛け、
テレビを見始めた。


私はお肉と野菜を炒め始める。

この間飲んだ赤ワインも残っていたはず。アレも使ってしまおう。
冷蔵庫に放り込んでいた瓶を取り出す。

ちょっと高級な味になるかな。正直、料理には自信がない。


くつくつと音を立て始めたお鍋の横で、
サラダを作り始めようとした時、彼がこちらを向いた。

「エプロン持ってないの?」
「エプロン?持ってるけど…普段付けないよ」
「えー、付けてみてよ」
「もぉ」

面倒だけど、彼のリクエストに応えることにした。

私はクローゼットの奥からエプロンを引っ張り出して身に纏う。
ベージュでカントリー調の柄がついたエプロン。


「これでいい?」
彼の前で、くるりと一回転してみせる。

「もっとエッチなエプロンはないの?フリフリのピンクのとか・・・」
「ないわよ」

私は、不服そうな彼の額を小突くとキッチンへ戻った。


キュウリを真剣な顔で刻み始める。

実家で居る時、あまり料理はしなかった。
彼女と暮らし初めて、それなりに自炊はしていたけれど、
まだ心地よいリズムが刻めるほどの包丁さばきは身に付かない。


「美羽」
不意に後ろから抱きしめられて、びくりとする。

「び…吃驚した。包丁落としそうになったじゃない」

いつの間にか私の背後に回っていた彼。
私の腰に腕を回して、髪に顔を埋めてくる。


「欲情したんじゃないでしょうね?」
「……した」

冗談で言ったのに、真剣な声が耳元で返ってきた。


「美羽…すげぇ好き…」
切ない声に鼓動が上がって、固まったまま包丁を手放す。


彼の熱い手が、エプロンの下のスカートにかかる。

後ろのボタンが外されて、ジッパーが下がる。
スカートは、床にすとんと音を立てて落ちた。




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