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官能小説「零れる月」 恋人(3) 


「私…女になっちゃった…」
真っ赤な顔をした彼女が、俯きながら話し始める。


久しぶりに部屋に戻ってきたルームメイト。
彼女は、最近付き合い始めた一つ上の先輩の部屋に入り浸っていた。

少しぽっちゃりめだけれど、綺麗な顔立ち。
高校の時につき合っていた男の子のせいで男性不信だと言っていた。
その彼女が、先輩と知り合ったのは一ヶ月前。


「この人ならね……信用できるって思ったの」

初めてのキスも、その先輩と交わしたらしい。

「あのね、やっぱり最初は痛くて入らなくて…」

どんどん饒舌になっていく彼女。
ぽかんとしている私の前で、キスから行為に至るまでを克明に話し続ける。


大好きな人との初めてのキス。
初めてのセックス。

汚れのない彼女の行為は、とても綺麗に思えて。
私のそれとは全く違うもののように思えた。


「美羽は、最初の人ってどんな人だったの?」

彼女の問いかけに、私は口籠もる。

「美羽ってそういうの全然話さないよね。ま、いいよ。話したくないなら…」


彼女は、また先輩のことを話し始めた。

自分のことは良く喋るけれど、人のことには興味がない。
そんな彼女に時々呆れはしたけれど、
さっぱりとした彼女との生活はとても気楽だった。


「それでね、私…先輩と一緒に暮らそうと思うんだ」
「暮らすって・・・同棲するってこと?」

「うん。部屋代はね、今まで通り半分出すから。
その代わり、親とかから連絡あったら、誤魔化してて欲しいの」

彼女は電話の隣のメモ帳を掴むと、先輩の部屋の電話番号を書きこんだ。
「何かあったら、こっちに連絡して?」


「美羽も。この部屋に良くん連れ込んでいいからね?
こっちに来る前には電話入れるから」

彼女は、私の恋人と面識があった。
勢いに押されるまま、私は彼女の荷造りを手伝う羽目になる。


「足りないものは、いつでも取りにこられるじゃない」
「そうだね」

それでも、彼女の荷物はまるで夜逃げするかのようにどんどんと大きくなっていく。

「なんだか…娘を嫁に出す気分」
呟くと、彼女は声を上げて笑った。


暫くして、部屋の前でクラクションが鳴る。

赤いスポーツタイプの車。
顔だけは知っている先輩に軽く頭を下げる。
運転席の先輩は、にこやかに会釈を返してくれた。


彼女は大荷物を後ろの座席に積み込んで、
幸せそうに助手席に乗り込んだ。

「じゃぁね」

車の中から手を振る彼女を見送る。
そんなに離れた場所に行くわけでもないのに、
走り去る車を眺めるとなんだか寂しくなった。



一人きりになった静かな部屋。
ソファーに埋もれて、メンソールの煙草を一本だけふかす。

心も、体も、時間も。
全てを一人だけに捧げられる彼女が、少しだけ羨ましかった。



「じゃ、これから美羽一人で暮らすの?」

賑わう学食。
この大学の学食は不味いと評判だ。
一緒にコシのないうどんを啜っていた恋人が顔を上げる。

「完全に、じゃないけどね。時々は帰って来るみたいだし」
「ということは…俺も遊びに行けるってことだよな」
「ああ、良くん連れ込んでいいよーって言ってた」
「よし!」

「…なんか…エッチなこと考えた?」
「ち…違う違う」

彼が、咽せそうになりながら必死で否定する。

「美羽、男子寮入りにくいだろ?
俺が行けるなら、もっとゆっくりできるかなって」


確かに男子寮には入り辛かったし、
入ってもなかなか落ち着けるような状況ではない。

夜中のドライブは続いていたけれど、
のんびりと二人でいられる場所はなかなか見つけられずにいた。


「そうだね。ご飯とか、部屋で一緒に食べられるね」
「作ってくれるの?」
「あまり難しいの作れないけど」
「なんでもいいよ。俺、文句言わないから」


嬉しそうな顔。
嘘を付けない彼の表情を穏やかに眺める。

「じゃ、今晩一緒に作って食べようか?」
「今日?いいの?」
「うん。授業終わったら一緒に買い物行こうよ」


初めてのイベントに、私たちは浮き足立っていた。
授業中、彼の頭はずっと今晩のメニューで一杯だったようだ。

恋人との、二人だけの生活。

私は、隣で顔を緩めっ放しの彼の横顔を見つめながら、
それも悪くないな、とぼんやり考えていた。





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