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官能小説「零れる月」 友人(1) 


「美羽ちゃん、キレイになったね」


こんなに調子のいい男だったっけ。
隣で乾杯の生ビールに口を付ける友人の横顔を眺める。


ふらふらと流されるままに二次会の会場まで来てしまった。
耳障りな程に賑やかな、声に音楽。
場所は庶民的な価格で人気のある居酒屋。
横長の座卓をずらりと囲むように、狭い座敷に皆がひしめき合っていた。



思いの外盛り上がった同窓会は、夕方で終了した。
当然のごとく用意されている二次会に、半数以上が参加すると手を挙げた。
幹事達がバタバタと慌ただしく電話をかけている。


「美羽も来るよね?」
女友達に袖を掴まれたまま、私はぼんやりと頷く。
このまま、一人になりたくはなかった。


「ねー、佐伯先生は?」
少し遠くで聞こえる声に、びくりとして耳を澄ます。

「俺はもういい。皆達者でな」
「えーーー」

彼は引き止める教え子達を軽くあしらって、
路肩に並んで待っていたタクシーに乗り込んだ。


本当は帰って欲しくなかった。
彼の乗り込んだタクシーが走り出す。
人に遮られて、彼の顔を見ることはできなかった。



「美羽ちゃん、よく飲むねぇ」

私の右隣に座ったのは、同じクラスの一哉だった。
あまり、見た目は変わらない。短髪で男らしくすっきりとした顔。
ルックスも良くて人気もあったけれど、
高校時代はずっと同じ進学クラスの女子とつき合っていた。


「私、そんなに飲めないのよね」

頬はきっと真っ赤で、耳まで熱い。
私は梅酒だのサワーだの、飲みやすいアルコール類を速いペースで重ねていた。


私は普段お酒にとても弱い。
でも、今日は妙に意識がはっきりして、いくらでも飲める気がした。
飲めるだけ飲もう。今は何も考えたくない。


「一哉くん、彼女とはどうなったの」
人形のように可愛らしかった彼女の顔が浮かぶ。

「ああ、あいつ県外に進学しただろ?
しばらく遠距離してたけど、やっぱり続かなかったよ」
「へぇ・・・そういえば彼女、来てなかったね」

私は彼と他愛のない会話を交わしながら、杯を重ねた。
左隣に座っていた女友達も、その隣の友人との会話に夢中で。


「俺、美羽ちゃんのこと気になってたんだよね」
生ビールから、熱燗へと移行した彼が明るい調子で言う。

「うそばっかりー。酔ってるんでしょ?」
けらけらと笑い飛ばす。


教師である彼との逢瀬に精一杯だったあの頃は
同年代の男子に何の興味もなかった。
その私が異性としての興味を持たれるなど、あり得ない話で。


「ホントだってば。美羽ちゃん、なんか大人びててさ。
上手く言えないけど…なんか他の子とはちょっと違ってたから」


「…でも、ホント、キレイになったよ」
彼がまっすぐに私の顔を見つめる。

私は軽く笑い返すと、頬杖を付いて呟いてみる。
「私…佐伯先生のことが好きだったのよね」

名を呼ぶと鼓動が早くなった。
彼が好き… 口に出すと、抑えている感情が溢れ出しそうになる。

「へぇ、やっぱり大人だったんだなぁ」
予想したとおり、軽い返答が返ってきた。


教師で、18も年が離れた妻帯者。
彼への恋心は、憧れで終わったはず。
誰もがきっと、そう思うだろう。


「美羽ちゃん、今彼氏居るの?」
「いるわよ。同じ大学の人」
「へぇ・・・羨ましいな」
「一哉くんこそ。モテるでしょう?」


私は、必要以上に彼の体に触れていたかもしれない。
座卓の下で、伸ばされた彼の手が私の右手を握る。
私は、皆に見られぬように、その手に指を絡めていた。



「そろそろ三次会に移動しようか」
幹事達が声を掛けて、皆が立ち上がる。

私達は、ずっと片手を握り合ったまま飲んでいた。
汗ばんだ手をゆっくりと解く。
温もりが恋しくて、寂しい気持ちになる。


ぞろぞろと、次の会場目指して夜の街を歩き始める。
流石に足にきているようだ。
ふらついてまっすぐ歩けない。

「美羽ちゃん、調子悪そうだから、俺送っていくわ」

並んで歩いていた彼が、女友達に声を掛けた。
「えー、美羽、大丈夫?」

気分が悪いというわけでもなかったが、彼に従うことにした。
「ん、また連絡するね。今日は楽しかった」

「一哉、送り狼にならないようにねー」
軽く冷やかしを受けながら、皆から離れる。
彼は、逆方向へとゆっくり歩き始めた。


「大丈夫?」
彼が、そっと肩を抱く。

「うん・・・平気」
肩に少しより掛かる。熱い体。


そのまま、二人はタクシーを後目に路地へと入った。
「もう少し、話しよう」

肩を抱かれたまま、淡いピンクの照明に照らされる。
その建物を見上げて一瞬躊躇したけれど、
私は大人しく彼に従って中へと入った。


エレベーターに乗り込む。
流れる沈黙。

彼が部屋を選んでいる間、
私は長い絨毯の続く廊下を眺めていた。






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