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官能小説「零れる月」 教師(5) 


私は、友人達とうわの空で会話しながら、
温くなったビールをちびちびと飲んでいた。


大きな窓から、陽の差し込む割と広い会場。
小さなステージと、七、八人くらいが囲める丸いテーブルがいくつか。
壁伝いには、バイキング形式のちょっとした料理やデザート類が並べられている。


卒業してからまだ二年ということもあって出席率は高く、
皆それぞれの近況話で盛り上がっていた。


ちらりと視線を遣る。
二つ向こうのテーブルで彼が赤い顔をしている。
相当飲まされているみたいだ。


なんだかんだ言いながら、やはり教え子は可愛いらしい。

彼は、クラスの生徒の名を、渡された名簿を殆ど見ることもないまま
ステージで呼び上げると、一人一人に思い出話を付け加えた。
皆、担任が自分を覚えてくれていたことが嬉しかったようだ。


在学中、厳しかった彼の評価は二分していたけれど、
それぞれに希望する進路へ導いたのも彼。

彼は、何年も進学クラスを担当する評価の高い教師だった。
きっと将来も約束されているんだろう。
彼の父親もどこかの校長だったと噂に聞いたことがある。

その分、色々な雑務でいつも忙しそうではあったが、
その不規則で慌ただしい生活に、私たちの逢瀬は上手く紛れ込んでいたのだ。


「よぅ、飲んでるかぁ」
彼がひょこりと私の背後から首を出した。

「わぁ、佐伯せんせー!飲んで飲んでー」
友人達が、放置されて汗をかいた瓶ビールを掴んで彼に詰め寄る。

「う、もぅ勘弁してくれよ」
注がれるビールを苦痛そうに見遣る彼。

「一杯だけな、ほら見ろ。お前達が飲ませるから腹が出て…」
「お腹が出てるのは中年太りでしょー」
「うるせぇ」

「ほら、美羽も注いであげなよ」
友人から瓶が手渡される。

「いつも佐伯先生と美羽、いちゃいちゃしてたじゃない」


「…っふ…!!」
彼がビールを吹きそうになって身を屈めた。
私も、瓶を持ったままの姿勢で固まる。

「だって、先生。補習の時、いつも美羽ばっか当ててたもんねぇ」


…ああ、そういうことか。

冗談で流された会話に、へなへなと力が抜けそうになる。
放課後の二人の逢瀬を思い出して心臓が止まりそうになった。
アレがばれたなら、きっと彼は学校にはいられない筈。


「ふはは。美羽は俺のお気に入りだったからな」
軽い調子に戻った彼が、私の肩に腕を回す。

「あ、せんせー、セクハラだよー!」
きゃいきゃいと黄色い声が上がる中で、私は石のように固まったままでいた。



ざわめく会場を抜けてトイレに向かおうとすると、
彼がロビーの隅のソファーに体を投げ出し、一人で煙草を吸っていた。

近付こうか躊躇っている私の姿を見つけて、こっち、と手招く。
私は、周りを気にしつつも、おずおずと彼の傍に歩みを進めた。


「さっきは吃驚したな…」
小声で彼が可笑しそうに呟く。

「心臓止まりそうになったわよ」
まだどきどきが収まらない。

「…色んなこと、思い出したよ」


彼が顔を上げる。目の前に立ったままの私と視線が合う。
笑っているのか、哀しんでいるのか、色んな感情が交ざった複雑な顔。


彼は立ち上がって、階段ホールの方へ向かった。
会場からは死角になっているが、開け放たれた会場からは賑やかな笑い声が聞こえる。
私は、無言で彼の後を追う。


「キスしたくなった」

彼が、私の腰を引き寄せて上を向かせる。

「ちょっと…せんせ…」
「先生、、か…」

言葉を飲み込むように深く唇が合わせられる。貪るようなキス。

「…っ…ぁ…ん」


ちゅ、くん、絡み合う唾液を飲み干す。

両の手の平が背中を滑り落ちて、尻肉を掴み上げる。

私は小さく声を上げる。
ずり上がったショーツが秘部を刺激して。


「お前見ると勃っちまうな。やっぱり・・・」

固くなったものを、ズボン越しに擦りつけてくる。
きゅん、体の奥が熱くなって、応えるように溢れ出してくるのが判る。

「…っ…酔ってるの…?」
「酔ってない」


また合わせた唇から、まるで犯すように乱暴に舌が入り込んでくる。
足が小刻みに震えて、背中にしがみつく。
談笑する声が、近くに、遠くに聞こえて。


「…誰か来ちゃう…よ…」
崩れそうになる理性を呼び起こす。

「美羽…」
「…なに?」

「愛してる」


私は、トイレの洗面台の前で呆然と立ちつくしていた。
鏡の中には、蒼白い私の顔。

滲んだ口紅をゆるゆるとひき直しながら、
彼の唇に残ってはいないかとぼんやり心配した。


きっと、何よりも欲しかった言葉。
それなのに、それなのに。

私は、感情と共に彼の言葉を深いところへと押し遣った。


これは、夢の中の台詞。

まるで水の底から地上を見上げるような、不思議な感覚に囚われながら
彼の温もりの残る体を、鏡の前で静かに抱きしめた。




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